デザイン経営の第一歩は、経営者の創業動機から始まる

MVVはある、しかし“機能していない”という現実

近年、「デザイン経営」という言葉が日本でも広がりを見せています。
経済産業省と特許庁が2018年に発表した『デザイン経営宣言』では、デザインを企業経営の中核に位置づけ、ブランド構築やイノベーションの源泉として捉える視点が提言されました。

しかし実際の現場では、「形だけのデザイン経営」や「ブランディング=ビジュアル刷新」といった誤解も少なくありません。そして何より、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)といった企業理念が、組織の中で“生きた言葉”として機能していないという問題が多くの企業に共通しています。

経営と組織文化の分断をどう乗り越えるか?

その原因は、MVVの定義そのものではなく、「なぜそれを語るのか」「誰が語るのか」という起点の欠如にあります。

 

このような分断は、単に制度や戦略の問題ではなく、「経営者がなぜその言葉を掲げたのか」「何を信じ、何を目指しているのか」が共有されていないことに起因します。理念や方向性が“上から与えられるもの”になってしまうと、組織内での意味や意義は希薄になり、定着しません。

経営理念が組織に根付かない理由

「明確性・共感性・行動連動」の3要素が欠けている

ハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、企業の目的(Purpose)が組織の中で真に機能するには、以下の3要素が欠かせないとされています。

  • 明確であること(Clarity)

  • 共感を呼ぶこと(Authenticity)

  • 行動と結びついていること(Alignment)

日本企業の多くでは、MVVが形式的に掲げられていても、それが経営層と現場の間をつなぐ共感と意思の回路として機能していないのが実情です。
経営者自身の言葉として語られていないMVV、あるいは社員が自分の仕事と接続できないMVVは、単なる装飾にすぎません。

北欧に学ぶ ―「パーソナル・リーダーシップ」から始めるMVV再定義

デンマーク流のリーダーシップへの考え

北欧諸国では、組織開発とデザイン思考を融合させた実践的な取り組みが進んでいます。特に、デンマーク・デザインセンター(DDC)が提供する「Personal Leadership Canvas(PLC)」は、経営者やリーダー自身が自らの哲学や目的を可視化するためのツールとして高く評価されています【3】。

“個人の哲学”からMVVを再構築するという視点

このキャンバスは、以下のような深い問いを通じて、経営者の内的ビジョンを引き出します:

  • 何に怒り、何に希望を感じるか?

  • 自分の行動は誰にどのような影響を与えるか?

  • どのような未来を実現したいか?

このプロセスを通じて明らかになるのは、単なる“経営戦略”ではなく、経営者の人生哲学そのものです。それこそが、MVVに魂を与える最初のステップになります。

問いを通じて経営者の「内なる目的」を可視化する

この「内なる目的」とは、経営者がなぜこの事業を始めたのか、なぜそれを今も続けているのかという個人的な想い、動機、人生の意味づけのことです。それを明確化し、社員と共有することで、MVVは“組織の羅針盤”として初めて機能し始めます。

日本企業がとるべきリーンなアプローチ

MVVを再定義し、デザイン経営を実践することは、大がかりな制度改革やブランディング施策を意味する必要はありません。
Kool Kage Creativeでは、最小限のリソースと時間で始められる「リーン」なプロセスを、企業規模に合わせて次のように設計しています。

小規模企業(〜10名)

経営者と全社員によるMVV対話ワークショップ
少人数の組織では、経営者が自らの想いを社員に語ることから始めます。パーソナルキャンバスを用い、全員で「私たちにとってのMVVとは何か?」を対話しながら定義していきます。

中規模企業(30〜100名)

経営層+部門代表者によるMVV共創プロジェクト
30〜100名規模の組織では、経営者と幹部で内なる目的を深掘りし、それを代表社員と共に言語化・編集。社内からフィードバックを受けながら“共創型”のMVVを育てていきます。

大規模企業(100名以上)

経営トップとの個別セッション+MVV編集チームの設置
100名以上の企業では、経営者との個別セッションでビジョンを深堀りし、MVV編集チームを設置して社内展開。ドキュメント化、映像化、ワークショップなど複数のタッチポイントで展開します。

デザイン経営とは、「哲学」と「経営」の融合である

「見た目のデザイン」だけでなく、「組織の意志」までを設計対象とする

つまり、プロダクトやサービスのデザインはもちろん重要ですが、それ以上に、その背後にある**組織の信念や行動原理――すなわち「なぜそれをつくるのか」「なぜそれを届けるのか」**を丁寧に言語化し、共有することが欠かせません。

デザイン経営とは、組織が“なぜこの事業を行うのか”という存在理由を明確にし、それを共感可能な言葉と体験を通じて組織内外に共有することであり、その根幹にあるのがMVVの再定義です。

MVVを曖昧なままにしてしまえば、どんなに美しいデザインも、どれほど戦略的なプロダクトも、長期的なブランド価値にはつながりません。

製品やブランドは「何をどう見せるか」だけでなく、「なぜそれをつくるのか」という文脈によって価値を持ちます。MVVは、その文脈を明確にし、組織内外の信頼と共感を生む基盤となります。

MVVの再定義は、デザイン経営の「スタート地点」です。これが曖昧なままであれば、社員の共感も、顧客とのつながりも、イノベーションの持続性も確保できません。

経営者の「個人の想い」が、組織全体の「共有された意思」になる

経営とは日々の意思決定の積み重ねであり、その背後には必ず「個人の動機」や「人生観」が存在します。

MVVの再定義とは、経営者自身がその想いに向き合い、それを組織全体で共有できる“意思”にまで育てていくプロセスです。

デザイン経営のスタートとは、壮大なプロジェクトでも革新的な製品開発でもなく、**「経営者の中にある“なぜ”を見つめ直す時間」**から始まります。

参考文献

  • 経済産業省・特許庁『デザイン経営宣言』(2018)
    https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523001/20180523001.html

  • Quinn & Thakor (2018), “Creating a Purpose-Driven Organization”, Harvard Business Review
    https://hbr.org/2018/07/creating-a-purpose-driven-organization

  • Danish Design Center, “Personal Leadership Canvas”
    https://ddc.dk/tools/personal-leadership/

05/10/2025
デザイン組織デザイン組織開発

経営理念は「生きて」いるか?

デザイン経営の第一歩は、経営者の創業動機から始まる MVVはある、しかし“機能していない”という現実 近年、「デザイン経営」という言葉が日本でも広がりを見せています。経済産業省と特許庁が2018年に発表した『デザイン経営宣言』では、デザインを企業経営の中核に位置づけ、ブランド構築やイノベーションの源泉として捉える視点が提言されました。 しかし実際の現場では、「形だけのデザイン経営」や「ブランディング=ビジュアル刷新」といった誤解も少なくありません。そして何より、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)といった企業理念が、組織の中で“生きた言葉”として機能していないという問題が多くの企業に共通しています。 経営と組織文化の分断をどう乗り越えるか? その原因は、MVVの定義そのものではなく、「なぜそれを語るのか」「誰が語るのか」という起点の欠如にあります。   このような分断は、単に制度や戦略の問題ではなく、「経営者がなぜその言葉を掲げたのか」「何を信じ、何を目指しているのか」が共有されていないことに起因します。理念や方向性が“上から与えられるもの”になってしまうと、組織内での意味や意義は希薄になり、定着しません。 経営理念が組織に根付かない理由 「明確性・共感性・行動連動」の3要素が欠けている ハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、企業の目的(Purpose)が組織の中で真に機能するには、以下の3要素が欠かせないとされています。 明確であること(Clarity) 共感を呼ぶこと(Authenticity) 行動と結びついていること(Alignment) 日本企業の多くでは、MVVが形式的に掲げられていても、それが経営層と現場の間をつなぐ共感と意思の回路として機能していないのが実情です。経営者自身の言葉として語られていないMVV、あるいは社員が自分の仕事と接続できないMVVは、単なる装飾にすぎません。 北欧に学ぶ ―「パーソナル・リーダーシップ」から始めるMVV再定義 デンマーク流のリーダーシップへの考え 北欧諸国では、組織開発とデザイン思考を融合させた実践的な取り組みが進んでいます。特に、デンマーク・デザインセンター(DDC)が提供する「Personal Leadership Canvas(PLC)」は、経営者やリーダー自身が自らの哲学や目的を可視化するためのツールとして高く評価されています【3】。 “個人の哲学”からMVVを再構築するという視点 このキャンバスは、以下のような深い問いを通じて、経営者の内的ビジョンを引き出します: 何に怒り、何に希望を感じるか? 自分の行動は誰にどのような影響を与えるか? どのような未来を実現したいか? このプロセスを通じて明らかになるのは、単なる“経営戦略”ではなく、経営者の人生哲学そのものです。それこそが、MVVに魂を与える最初のステップになります。 問いを通じて経営者の「内なる目的」を可視化する この「内なる目的」とは、経営者がなぜこの事業を始めたのか、なぜそれを今も続けているのかという個人的な想い、動機、人生の意味づけのことです。それを明確化し、社員と共有することで、MVVは“組織の羅針盤”として初めて機能し始めます。 日本企業がとるべきリーンなアプローチ MVVを再定義し、デザイン経営を実践することは、大がかりな制度改革やブランディング施策を意味する必要はありません。Kool Kage Creativeでは、最小限のリソースと時間で始められる「リーン」なプロセスを、企業規模に合わせて次のように設計しています。 小規模企業(〜10名) 経営者と全社員によるMVV対話ワークショップ少人数の組織では、経営者が自らの想いを社員に語ることから始めます。パーソナルキャンバスを用い、全員で「私たちにとってのMVVとは何か?」を対話しながら定義していきます。 中規模企業(30〜100名) 経営層+部門代表者によるMVV共創プロジェクト30〜100名規模の組織では、経営者と幹部で内なる目的を深掘りし、それを代表社員と共に言語化・編集。社内からフィードバックを受けながら“共創型”のMVVを育てていきます。 大規模企業(100名以上) 経営トップとの個別セッション+MVV編集チームの設置100名以上の企業では、経営者との個別セッションでビジョンを深堀りし、MVV編集チームを設置して社内展開。ドキュメント化、映像化、ワークショップなど複数のタッチポイントで展開します。 デザイン経営とは、「哲学」と「経営」の融合である 「見た目のデザイン」だけでなく、「組織の意志」までを設計対象とする つまり、プロダクトやサービスのデザインはもちろん重要ですが、それ以上に、その背後にある**組織の信念や行動原理――すなわち「なぜそれをつくるのか」「なぜそれを届けるのか」**を丁寧に言語化し、共有することが欠かせません。 デザイン経営とは、組織が“なぜこの事業を行うのか”という存在理由を明確にし、それを共感可能な言葉と体験を通じて組織内外に共有することであり、その根幹にあるのがMVVの再定義です。 MVVを曖昧なままにしてしまえば、どんなに美しいデザインも、どれほど戦略的なプロダクトも、長期的なブランド価値にはつながりません。 製品やブランドは「何をどう見せるか」だけでなく、「なぜそれをつくるのか」という文脈によって価値を持ちます。MVVは、その文脈を明確にし、組織内外の信頼と共感を生む基盤となります。 MVVの再定義は、デザイン経営の「スタート地点」です。これが曖昧なままであれば、社員の共感も、顧客とのつながりも、イノベーションの持続性も確保できません。 経営者の「個人の想い」が、組織全体の「共有された意思」になる 経営とは日々の意思決定の積み重ねであり、その背後には必ず「個人の動機」や「人生観」が存在します。 MVVの再定義とは、経営者自身がその想いに向き合い、それを組織全体で共有できる“意思”にまで育てていくプロセスです。 デザイン経営のスタートとは、壮大なプロジェクトでも革新的な製品開発でもなく、**「経営者の中にある“なぜ”を見つめ直す時間」**から始まります。 […]
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近年、AppleやIDEO、IBMといった世界的企業がデザインを経営の中心に据えることで、競争優位を確立しています。McKinseyの調査によると、デザイン経営を推進する企業は、収益成長率が32%高く、株主総利回り(TRS)は56%高いという結果が示されています。

しかし、日本企業では、デザインは「コスト」と見なされがちであり、経営層の関心もまだ低いのが現状です。BCGの調査によると、日本企業のデザイン投資は欧米に比べて約30%低く、デジタル変革(DX)と統合したデザイン経営を導入している企業は20%未満にとどまっています。

このような現状の中で、デザインを戦略的に活用し、経営の中核に据えることが、企業の持続的な成長を促す鍵となります。本記事では、デザイン経営の意義、日本企業における課題、そして成功に向けた具体的なアクションプランについて考察します。

デザイン経営の本質とは?

 デザインを単なる「見た目」の問題と考えていないか?

多くの企業が「デザイン=視覚的な美しさ」と捉えがちですが、デザインとは本来、ユーザーのニーズを深く理解し、問題を解決するための手法です。デザイン経営は、単なるプロダクトデザインにとどまらず、ビジネスモデル、組織の構造、カスタマーエクスペリエンス(CX)にまで影響を及ぼします。

McKinseyの『Business Value of Design』によると、MDI(McKinsey Design Index)で上位25%に入る企業は、業界平均の約2倍の成長率を達成していると報告されています。これは、デザインが単なる装飾ではなく、ビジネスの競争力そのものであることを示しています。

デザイン経営の3つの柱

  1. 顧客中心のアプローチ
    • UX(ユーザーエクスペリエンス)とUI(ユーザーインターフェース)の最適化
    • データドリブンなデザイン意思決定
  2. 経営との統合
    • デザインを経営指標(KPI)として活用(例:顧客満足度、コンバージョン率)
    • デザイン部門を経営層と連携させる
  3. 組織文化の変革
    • デザイン思考を組織全体に浸透させる
    • 「デザインは経営戦略の一部」という共通認識を確立

日本企業が直面する課題

経営層がデザインの重要性を理解し、戦略に組み込む

デザインの導入に際し、多くの日本企業は「本当に投資効果があるのか?」と疑問を抱いています。しかし、McKinseyの調査によると、UXの改善により売上が25%向上した企業の事例もあり、適切なデザイン投資は確実に利益につながることが示されています。

デザイン投資のROI(投資対効果)が不透明

BCGの調査によると、日本企業の多くがデザインを「ブランディングの一部」と捉え、経営戦略と統合できていない現状があります。欧米の成功企業は、デザインを経営戦略と密接にリンクさせ、事業成長のドライバーとして活用しています。

人材不足とデザインリーダーシップの欠如

デザイン経営を推進するには、デザインとビジネスの両方を理解するリーダーが不可欠です。しかし、日本ではそのような人材が少なく、また経営層がデザインの重要性を理解していないケースが多いのが現状です。

デザイン経営を成功させる

経営層がデザインの重要性を理解し、戦略に組み込む

  •  デザインのKPI(例:UX指標、顧客満足度、コンバージョン率)を設定し、経営の意思決定に活用する。
  • デザインリーダー(CDO:Chief Design Officer)を経営層に迎え入れることで、デザインとビジネス戦略を統合する。

小さな成功体験を積み重ねる

  • いきなり大規模な変革を目指すのではなく、小規模なデザインプロジェクトを実施し、その成果を評価・共有する。
  • 例えば、UX改善を目的としたA/Bテストを行い、その結果をもとにさらなるデザイン改善を進める。

デザイン思考を組織文化に根付かせる

  • デザイン思考の研修プログラムを実施し、全社員が基本的なデザインの概念を理解できるようにする。
  • デザインを経営戦略と連携させるために、各部署がデザインチームと協力する仕組みを構築する。

海外の成功事例を参考にする

  • IDEOやAppleのデザイン経営戦略を学び、日本企業に適用可能な要素を導入する。
  • 欧米企業とパートナーシップを結び、デザイン経営のノウハウを吸収する。

デザイン経営は未来の競争力

デザインを経営の中心に据えることは、企業の成長に直結する戦略的な選択です。
ここで語るデザインとは、いわゆる美しい形を象るだけでなく、こうした表面上の美しさが、企業の本質や経営戦略と深く結びつく重要性を示しています。

日本では、見た目の良さよりも、「機能」が重視されますもの、実はこの「機能」とは、「プロダクトの造形」に深く関与し、また「造形」とは、実は単にそれっぽいものを作るだけでは、他者との差別化や、プロダクト戦略と上手に共鳴しない可能性があります。
そして、何よりも、こうした活動を実施し続ける過程で、組織としての見栄えや、その中で働く人々の仕組み(組織開発)など、荒野のような状態を整えていく必要はあります。こうした取組は、組織としての誠実さ、ビジネスの観点における実力を証明し、確実に従業員のエンゲージメント向上や組織の生産性にも貢献します。


デザイン投資は単なるコストではなく、競争優位を生む「資産」となります。

日本企業が今こそデザイン経営を取り入れ、グローバル市場での競争力を高めるべき時です。

参考文献

  • McKinsey & Company (2023). The Business Value of Design. Retrieved from https://solutions.mckinsey.com/design-index/
  • Boston Consulting Group (2023). 日本企業の特徴と強み、未来に向けた成功要件 ― BCG Future Winning Modelシリーズ 後編. Retrieved from https://www.bcg.com/ja-jp/
  • Cognizant (2023). KPIs in the Design Process. Retrieved from https://www.cognizant.com/nl/en/insights/blog/articles/kpis-in-the-design-process

※ 本記事の内容は、上記の参考文献を基に編集・執筆しています。

03/04/2025
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