05/10/2025
デザイン組織デザイン組織開発

経営理念は「生きて」いるか?

デザイン経営の第一歩は、経営者の創業動機から始まる

MVVはある、しかし“機能していない”という現実

近年、「デザイン経営」という言葉が日本でも広がりを見せています。
経済産業省と特許庁が2018年に発表した『デザイン経営宣言』では、デザインを企業経営の中核に位置づけ、ブランド構築やイノベーションの源泉として捉える視点が提言されました。

しかし実際の現場では、「形だけのデザイン経営」や「ブランディング=ビジュアル刷新」といった誤解も少なくありません。そして何より、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)といった企業理念が、組織の中で“生きた言葉”として機能していないという問題が多くの企業に共通しています。

経営と組織文化の分断をどう乗り越えるか?

その原因は、MVVの定義そのものではなく、「なぜそれを語るのか」「誰が語るのか」という起点の欠如にあります。

 

このような分断は、単に制度や戦略の問題ではなく、「経営者がなぜその言葉を掲げたのか」「何を信じ、何を目指しているのか」が共有されていないことに起因します。理念や方向性が“上から与えられるもの”になってしまうと、組織内での意味や意義は希薄になり、定着しません。

経営理念が組織に根付かない理由

「明確性・共感性・行動連動」の3要素が欠けている

ハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、企業の目的(Purpose)が組織の中で真に機能するには、以下の3要素が欠かせないとされています。

  • 明確であること(Clarity)

  • 共感を呼ぶこと(Authenticity)

  • 行動と結びついていること(Alignment)

日本企業の多くでは、MVVが形式的に掲げられていても、それが経営層と現場の間をつなぐ共感と意思の回路として機能していないのが実情です。
経営者自身の言葉として語られていないMVV、あるいは社員が自分の仕事と接続できないMVVは、単なる装飾にすぎません。

北欧に学ぶ ―「パーソナル・リーダーシップ」から始めるMVV再定義

デンマーク流のリーダーシップへの考え

北欧諸国では、組織開発とデザイン思考を融合させた実践的な取り組みが進んでいます。特に、デンマーク・デザインセンター(DDC)が提供する「Personal Leadership Canvas(PLC)」は、経営者やリーダー自身が自らの哲学や目的を可視化するためのツールとして高く評価されています【3】。

“個人の哲学”からMVVを再構築するという視点

このキャンバスは、以下のような深い問いを通じて、経営者の内的ビジョンを引き出します:

  • 何に怒り、何に希望を感じるか?

  • 自分の行動は誰にどのような影響を与えるか?

  • どのような未来を実現したいか?

このプロセスを通じて明らかになるのは、単なる“経営戦略”ではなく、経営者の人生哲学そのものです。それこそが、MVVに魂を与える最初のステップになります。

問いを通じて経営者の「内なる目的」を可視化する

この「内なる目的」とは、経営者がなぜこの事業を始めたのか、なぜそれを今も続けているのかという個人的な想い、動機、人生の意味づけのことです。それを明確化し、社員と共有することで、MVVは“組織の羅針盤”として初めて機能し始めます。

日本企業がとるべきリーンなアプローチ

MVVを再定義し、デザイン経営を実践することは、大がかりな制度改革やブランディング施策を意味する必要はありません。
Kool Kage Creativeでは、最小限のリソースと時間で始められる「リーン」なプロセスを、企業規模に合わせて次のように設計しています。

小規模企業(〜10名)

経営者と全社員によるMVV対話ワークショップ
少人数の組織では、経営者が自らの想いを社員に語ることから始めます。パーソナルキャンバスを用い、全員で「私たちにとってのMVVとは何か?」を対話しながら定義していきます。

中規模企業(30〜100名)

経営層+部門代表者によるMVV共創プロジェクト
30〜100名規模の組織では、経営者と幹部で内なる目的を深掘りし、それを代表社員と共に言語化・編集。社内からフィードバックを受けながら“共創型”のMVVを育てていきます。

大規模企業(100名以上)

経営トップとの個別セッション+MVV編集チームの設置
100名以上の企業では、経営者との個別セッションでビジョンを深堀りし、MVV編集チームを設置して社内展開。ドキュメント化、映像化、ワークショップなど複数のタッチポイントで展開します。

デザイン経営とは、「哲学」と「経営」の融合である

「見た目のデザイン」だけでなく、「組織の意志」までを設計対象とする

つまり、プロダクトやサービスのデザインはもちろん重要ですが、それ以上に、その背後にある**組織の信念や行動原理――すなわち「なぜそれをつくるのか」「なぜそれを届けるのか」**を丁寧に言語化し、共有することが欠かせません。

デザイン経営とは、組織が“なぜこの事業を行うのか”という存在理由を明確にし、それを共感可能な言葉と体験を通じて組織内外に共有することであり、その根幹にあるのがMVVの再定義です。

MVVを曖昧なままにしてしまえば、どんなに美しいデザインも、どれほど戦略的なプロダクトも、長期的なブランド価値にはつながりません。

製品やブランドは「何をどう見せるか」だけでなく、「なぜそれをつくるのか」という文脈によって価値を持ちます。MVVは、その文脈を明確にし、組織内外の信頼と共感を生む基盤となります。

MVVの再定義は、デザイン経営の「スタート地点」です。これが曖昧なままであれば、社員の共感も、顧客とのつながりも、イノベーションの持続性も確保できません。

経営者の「個人の想い」が、組織全体の「共有された意思」になる

経営とは日々の意思決定の積み重ねであり、その背後には必ず「個人の動機」や「人生観」が存在します。

MVVの再定義とは、経営者自身がその想いに向き合い、それを組織全体で共有できる“意思”にまで育てていくプロセスです。

デザイン経営のスタートとは、壮大なプロジェクトでも革新的な製品開発でもなく、**「経営者の中にある“なぜ”を見つめ直す時間」**から始まります。

参考文献

  • 経済産業省・特許庁『デザイン経営宣言』(2018)
    https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523001/20180523001.html

  • Quinn & Thakor (2018), “Creating a Purpose-Driven Organization”, Harvard Business Review
    https://hbr.org/2018/07/creating-a-purpose-driven-organization

  • Danish Design Center, “Personal Leadership Canvas”
    https://ddc.dk/tools/personal-leadership/

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